■シンポジウム4 環境と平和をつなぐ
人間中心主義から、すべての生命の安全保障へ
2008年5月5日 午後1:00~3:30
国際会議室
モデレーター:
辻信一(明治学院大学教授、ナマケモノ倶楽部 日本)
小野寺愛(ピースボート共同代表 日本)
パネリスト:
アリス・スレーター(核時代平和財団、アボリション2000創設メンバー アメリカ)
星川淳(グリーンピースジャパン事務局長 日本)
アウキ・ティトゥアニャ コタカチ郡知事(先住民族出身 エクアドル)
<概要>
男女のモデレーターと、エクアドル、米国、日本から3人のゲストスピーカーを迎え、「パックス・アメリカーナ」(米国覇権のもとの平和)のみならず「パックス・エコノミカ」(経済覇権のもとの平和)も問い直そうというテーマで、多彩な議論を行った。開発(development)が「豊かさ」や「幸せ」をもたらすというマインドセットから自由にならなければ、次の段階の問題は解けない。太陽光・風力・地熱をはじめとする自然エネルギーは世界の全需要を何十倍も上回るくらい存在するし、原子力に頼らず2050年までに全世界の温室効果ガス排出を半減する脱温暖化の道はある。核兵器転用への本質的な歯止めがない原子力発電とプルトニウムの再処理から、憲法9条を持つ日本は撤退すべきである。環境もエネルギーも民主主義と自治の問題であり、北米先住民のイロコイ民主制やエクアドルのコタカチ郡で進む草の根デモクラシーの実践から学ぶことが多い。日米安保が日本国憲法の上位にある異常事態を変えなければ憲法9条は生きない。2010年に安保条約を根本から見直し、「パックス・エコロジカ」の時代を拓こう!
<内容>※概要です。引用ではありません
辻信一: かつてローマ帝国支配下の平和のことを「パックス・ロマーナ」と呼んだ。現代の平和は「パックス・アメリカーナ(アメリカ支配のもとの平和)」であり、イヴァン・イリイチの言う「パックス・エコノミカ(経済支配のもとの平和)」の状態だ。今、「平和」を際限のない経済成長から抜け出させ、「パックス・エコノミカ」というマインドセットに変わる新しい社会システムを構築しなくてはならないのではないか。
アリス・スレーター: 地球は今、危機的状況にある。温暖化で自然災害は増え、トウモロコシが車の燃料に使われるようになり、食料をめぐる暴動が今月だけで世界25カ国で発生した。本当は、太陽、風力、潮汐、地熱などで全世界に必要なエネルギーをまかなうことが可能なのに。産業界は、これらのエネルギーは「実現不可能」だというが、それは太陽などは無料で存在するもので、販売して儲けることができないからだ。先進国は、自分達が原子力をもつのは構わないが、イランや北朝鮮はだめだと言う。もし持つのなら爆撃するぞ、と。核のゴミ(プルトニウム)を作る原発は「爆弾工場」だ。日本はすでに長崎型原発5000発に相当する量のプルトニウムを保持している。原発の周囲では子どもの白血病などの発生率が高いという報告をドイツ政府も出している。青森県六ヶ所村で本格稼動を控えている再処理工場などは、環境に対する戦争。半減期が25万年という放射性廃棄物を出すことは、すべての命に戦争をしかける行為だ。原発を推進し、原発にお金をかけることで、太陽、風力などの自然エネルギーの推進にお金が使えなくなる。憲法9条は日本の「非武装」を守るだけにとどめてほしくない。9条を拡大解釈して世界の「軍縮」と「環境」に貢献する、そういう国になってほしい。
小野寺愛: 去年、国連のバン・キムン事務総長も「世界で使われている軍事費125兆円の1%を使うだけで、地球上の全ての子どもたちに初等教育を提供することができる」と言った。ガンジーは「貧しさが問題なのではない。豊かさが問題なのだ」と言った。今の地球の状態は、戦争をしているような場合じゃない。経済成長神話から抜け出し、軍事費を本当に必要な分野に再分配していくことが大切だ。
星川淳: パックス・エコノミカに代わる新しいシステムを、12世紀の北米大陸にすでに存在していた「ピースメーカー」から学びたい。彼らは戦乱に明け暮れていた5つの部族を百年かけて和解させ、「イロコイ連邦」を作った。イロコイ連邦の『大いなる平和の法』には、「何を決断するときも、7世代先のことまで考えてから決めよう」とある。のちに白人達がやってきたとき、互いの自治を認め合う先住民族の民主的な営みに接して大きな影響を受けた。そしてその影響は、トーマス・ジェファーソンらが合衆国(合州国)という形態で表現したが、残念ながら合衆国憲法に関しては、非武装と対話で物事を決める姿勢・女性の長老制度という2つの大切な取り決めははずされた形で成立した。そのアメリカから影響を受けて成立した日本国憲法に憲法9条の「非戦・非武装」と女性の参政権が明記されたのは、ある意味たいへん感慨深い。
放射能の置き土産を7世代先どころか2万5千年後まで残す六ヶ所の再処理工場については、私たちが本当の意味で憲法を使いきって話し合いで物事を決断する社会を築けていたら、起こらなかった問題だろう。再処理工場は原発が1年間で出すのと同じ量の放射能を1日で出すと言われている。ここでできるプルトニウムがテロに使われたらという核拡散の問題があり、原発はもともと採算があわないという経済的な問題もある。日本も核武装のオプションを持っておきたいのではないかと疑う声もある。このように大きな問題であるのに、メディアは六ヶ所の問題を一切取り上げない。憲法9条もそうだ。9と6がタブーになってしまう日本のメディアは、危うい。
温暖化を防止するには、日本は2050年までに二酸化炭素の排出量を8割減らさないといけない。この削減を原発だけで推進するには、2週間に1機建てないといけない計算。絶対に無理だ。まずは電気を3割削減して、原子力をはずそうということを提案したい。自然エネルギーの比率を7割にすることが必要だ。難しいと思われるかもしれないが、複利計算で行くと毎年4%ずつ。十分可能である。詳しくは、グリーンピースのホームページにあるエネルギー・レボリューションを見て欲しい。
アウキ・ティトゥアニャ: 500年間で犠牲になった南米先住民の命は、7000万人。これは2つの大戦での犠牲者数を上回る。差別され、民主主義から排除されてきた504年の大変な時代を超えて、先住民の知恵にある「参加型の民主主義」を新しい形で実行するため96年に初当選して、現在12年目だ。我々は大きな民衆集会を毎年開いている。子どもからお年寄りまで女性も含めて、数万人が集まり、医療、教育、環境、税、予算について話し合う。コタカチでは投資案件はすべて住民が参加して決める。成功の鍵は対話と多様な文化を尊重し理解することだ。私が知事をやってきた12年間は、エクアドルの危機(政権が9回交代し、憲法が改定され、自国通貨が米ドルになった時期)と重なっている。しかし我々はその中で対話によって平和文化を構築し、ユネスコから「平和都市賞」を得た。2000年にはエコロジー憲章も制定し、森林農法を行うことで、木材の伐採や鉱山開発にブレーキをかけてきた。15年闘って、多国籍企業による採掘権の無効化も可能にした。2005年にコタカチは100%の識字率を達成した。伝統的先住民医療を見直し、医療費の無料化も実現した。そして現在、91の自治体がコタカチをモデルに継承しようとしている。エクアドルでは石油の開発が始まってから、貧困も対外債務も増大した。銅山の開発が発展につながるとは思えない。エクアドル政府は国家予算の25%を使って、戦闘機20機を購入することに決めた。9条があれば、予算を文化や社会のために使える。
辻信一: 憲法9条を守ろうとよく言うが、「守る」という言い方の中にある防衛的で、「現状維持」的なニュアンスを超えたい。60年前に書かれた9条には、今日我々が抱いているようなエコロジーの視点は盛り込まれなかった。現代世界に起こっている動植物を含めたすべての命に対する暴力、自然界に対する戦争という視点も。今後、これらを含むことで9条はもっと生きてくるだろう。
※以下、会場から
ダグラス・ラミス: 政府はなぜ戦争をするか。それは政府が「危機状態」を必要としているからだ。危機状態になれば政府はやりたい放題、国民は何が大切かを話す余裕がなくなる。戦争が全てに優先し、環境破壊、人権侵害が起こる。沖縄の人は「今の日本社会を支配しているのは憲法9条ではなく、安保条約」だと言う。これまでの時代は「日米安保」と「九条を守る」がセットになっていた。日米安保の傘に入っておきながら、とりあえず9条で日本が安全であればよいというような考え方。そして、その安全の中で経済成長を実現してきた。一度、安保や経済成長と切り離して9条を真剣に「選びなおす」必要がある。
正木高志: もし日本が9条を「改めて選ぶ」という段階に進めたら、世界に衝撃を与えると思う。「9条を捨てない」という人に投票するときに、私は日本人から地球市民になるのだと思う。
アリス・スレーター: アメリカの憲法は1700年代に白人男性によって書かれた。その時代、奴隷を人間として認めていなかったし、女性の権利もなかった。人々の意識が高まるにつれて奴隷制は廃止され、女性の参政権が盛り込まれた。憲法9条も同様に長く実践していく必要がある。9条は戦争を否定しただけで、エコロジーの視点が含まれているわけではないが、今後9条をその方向で拡大解釈していくことは可能だろう。
星川淳: 安保も米軍基地も憲法違反だ。安保は10年ごとに見直すことになっている。1960年は大きな闘争になったし、70年も学園紛争などと一体となって盛り上がった。ところが80年以後途絶えている。2010年を日米安保を考え直すときにしたい。「パックス・エコロジカ」、環境の下の平和を目指そう!
アウキ・ティトゥアニャ: 我々は命を愛し、平和を愛する部族だ。今はまだ、私たちのやっていることはコタカチにとどまっていて、エクアドル全体が変わっているわけではない。しかしコタカチが変わっていることは大きな第一歩だ。あるハチドリの話をしたい。山火事がおきて、森に住む動物が逃げ出していったとき、ハチドリのクリキンディだけが湖からくちばしで水を運んで、1滴ずつ山火事にかけていた。ライオンが「そんなことをして何になる」と言ったら、クリキンディはこう答えた。「私は私にできることをしているだけ」。
今、民主主義を山火事にたとえてみよう。コタカチはその火事を消そうとハチドリのような働きをしているにすぎないのかもしれない。しかし世界中の皆がハチドリのように、それぞれの場で小さな行動をして、それをつなげることができれば、やがて火を消すこともできるだろう。憲法9条を広げる運動も、同じだ。
(文責 小野寺愛)
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