シンポジウム5 核時代と9条

ヒロシマ・ナガサキから21世紀へ
2008年5月5日 午後4:00~6:30
コンベンションB



コーディネーター:
中村桂子(ピースデポ 日本)

パネリスト:
浅井基文(広島平和研究所 日本)
キャスリン・サリバン(軍縮教育家 アメリカ)
アリス・スレーター(核時代平和財団 アメリカ)
吉田一人(長崎の被爆者 日本)

「核時代と9条」とタイトルのついたこのシンポジウムでは、日本国内外の核軍縮の先駆者たちと被爆者がパネリストとして登壇し、核問題と9条のつながりを再確認した。


最初の発言者は広島平和研究所の浅井基文さん。今世紀は「核時代」ではなく「脱・核時代」となるべきであるという言葉に始まり、現在私たちの暮らす社会がエネルギーという分野も含め、いかに原子力と結びついているかを紹介した。だからこそ21世紀はそれを超えた社会となるべきであり、核兵器も戦争もない、人間の尊厳を大切にする、力によらない平和観を達成していくことが必要だ、と言う。日本国憲法の第9条は日本国内にとどまるものではなく、すべての戦争否定観を代表するものであり、また、普遍的価値としての人間の尊厳は同じく9条が源となっていると力強く発言した。


続いての発言者はアリス・スレーターさん。核時代平和財団のニューヨーク所長であり、核兵器廃絶NGOネットワーク「アボリション2000」の創設者でもあるアリスさんは、核不拡散条約(NPT)を中心にした国際社会の中での核軍縮に向けた世界の努力と挑戦を紹介。現在、日本やアメリカは多額の資金を軍拡に費やしているが、エネルギーを含め私たちの所有する資源は限られている。この限られた資源を軍拡などではなく、社会的、経済的正義のために使っていくべきである。環境と限られたエネルギーから見ても、現在の世の中は持続可能なエネルギーに向かっていくべきであり、核兵器廃絶と9条はそれに合致している。核兵器だけでなく、原子力や再処理から脱却すること、そして持続的なエネルギーへのシフトを考えていくことが核への依存から脱却していく鍵となると述べた。


軍縮教育家のキャスリン・サリバンさんはビービー弾を使ったユニークなデモンストレーションを行い、世の中に今存在している核兵器が持つ威力の恐ろしさを参加者は聴覚をつかって想像することができた。軍縮について教育するだけでなく、軍縮のための教育が大切であり、それは単に考えるだけでなく想像力を使うことというのが彼女の主張。これまでの大人は、たくさんのエネルギーを戦争に使ってきたが、平和を創るというクリエイティブなことを行っていくこれからの世代は、まるで年配者から叡智を受け継ぐように、9条の理念を生かしていくべきである、と締めくくった。


13歳のとき長崎で被爆した吉田一人さんは、9条というものそれ自体がヒロシマ・ナガサキに根ざしたものであり、ゆえに9条と核廃絶は切っても切れない関係にあり、9条とは"No more Hibakusha"という願いをあらわしたものである、と語った。第二次世界大戦当時、国民は戦争被害を受忍、すなわち我慢すべきだ、というのが日本の政府の考えであった。国は実は今もこの政策をとり続けているが、9条を変えてしまえばこの受忍政策は憲法にしたがったものになるという。改憲は被爆者たちの願いを踏みにじるものになる、と主張した。また、9条は報復をしないという意志の現れであり、誰も被爆者はヒロシマ・ナガサキから報復しようとは思っていないという。アメリカが核をなくしていくことこそが最大の謝罪なのだという言葉は、多くの聴衆の共感を呼ぶものであった。


休憩時間には、橋本公さんによる短編映画「1945-1998」が上映された。会場の大きなスクリーン映し出された世界地図に、1ヶ月を1秒に短縮して時を刻む音と、1945年から1998年の間に行われた2053回の核爆発を示す色とりどりの点が光る。字幕もナレーションもない。本来「休憩」とされたこの15分の上映時間中にほとんど席を立つ人がいなかったほど、力強いメッセージを込めた作品であった。


会場に集まった300人を超える参加者からは、質疑応答の時間にも数多くの質問が寄せられた。青森県六ヶ所村の再処理工場に関するものから学生の自分に何ができるかなど、幅広い質問に聴衆の関心の高さを伺うことができた。


会に急遽出席ができなくなった元国際刑事裁判所判事であるクリストファー・ウィラマントリーさんからはメッセージが寄せられた。核の惨禍を知る国の国民として日本は9条を大切にする義務を持っており、平和を促進していく前例となってください、とのこと。
また、アボリション2000からのメッセージとしては、9条を守る試みと世界会議を支持し、9条のような憲法上の規定を他の国も持つべきであるとの言葉が紹介された。


9条世界会議の終わりを飾るシンポジウムのうち一つであったこの会では、戦争で核爆弾を投下された唯一の国であり、そして9条を持つ日本は核廃絶の先駆者になっていくことが大切であるということが確認された。そして9条は核不拡散を叫ぶためだけでなく、すでに保有している国に廃絶を呼びかけていくためのツールとしても有益なものであるということが強調された。


(文責 高山瑤子)
投稿者:金熊 | 分科会レポート | comments (0) | trackbacks (0)

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