ディスカッション 「イラク、アメリカ、日本」

2008年5月5日 午後5:00~6:00
304会議室

テーマは「米軍はイラクから撤退すべきですか?~“9条”の理念はイラクで通用する?」とした。カーシム(元イラク軍兵士)、エイダン(イラク帰還兵)、雨宮処凛(日本の貧困問題に詳しい作家)と高遠菜穂子(イラク支援ボランティア)の4名が登壇し、高遠が進行役を務めた。


参加者全員への配布資料として以下のものを配布した。
(1) イラクの世論調査「米軍はいつまで駐留すべきか?」(NHK、ABC、BBCによる合同調査)※「即時撤退」が47%
(2) アメリカの世論調査「米軍はいつまで駐留すべきか?」(アメリカの調査会社GALLUPによる調査)※「即時撤退」が17%
(3) 大統領選3候補者のイラク駐留米軍に対する見解(マケイン氏、クリントン氏、オバマ氏)
(4) イラク情勢を記した地図(治安情勢が地域によって異なる)
(5) イラク戦争:数字で見る最新情勢として人的損失、戦争費用、イラク国民の苦境など。(「イラクの泥沼(暗いニュースリンク)」より)



まず、参加者には「即時撤退」「段階的撤退」「駐留」の3つのどれを支持するか意思表示をしてもらった。当初、グループに分かれて着席してもらうことを想定していたが、超満員だったため挙手。「即時撤退」が圧倒的多数、段階的多数が20名ほど。「駐留」を支持した人はゼロ。


イラク帰還兵のエイダン氏が「良心的兵役拒否をするきっかけとなった体験」を写真を用いて報告。エイダン氏はまず、米軍の黒い遺体袋に入れられたイラク人の遺体の割れた脳みそをスプーンですくっている様子の写真を示し、イラク人捕虜の遺体の扱いについて疑問を持ったと発言。また、アブグレイブ刑務所周辺で抗議行動をしていたイラク人たちに対し、米兵たちがパニック状態に陥り、無差別発砲。イラク人12名中4名が殺された時の様子を語った。衝撃的な写真の数々に目をそらす参加者もいた。


続いて、元イラク軍共和国防衛隊兵士、現人道支援ワーカーのカーシム氏が「米軍の軍事作戦を受けた側」の様子を写真を用いて報告した。ラマディ市内の住宅が空爆され、死傷者多数。救急車などがないため、近隣住民が瓦礫の中から遺体を収容している様子を語った。ラマディ市唯一の鉄道駅は、跡形もなく空爆されている。市内のある地区では、高い建物が狙撃兵の拠点とされ、その周辺にある学校、銀行、ホテル、青少年センターや住宅が狙撃の際の"遮蔽物"として一掃されている。また、数々の爆撃などで下水管が破壊され、水浸しになった市内の様子も示した。また、カーシム氏自身が米軍に2度拘束された際、毎日全裸で刑務所内を移動させられていたことなどを語った。


作家の雨宮氏は、まずエイダン氏に「こうした虐待をする米兵たちは、どの年代で、どのような人たちなのか?」という質問をした。エイダン氏は、米兵たちの多くが若く、中には18~20歳もおり、また、自分の所属部隊には貧困層が多かったと答えた。


これを受けて、雨宮氏が日本の貧困問題の現状について報告。東京のいわゆる“ネットカフェ難民”と呼ばれる人たちを支援するNPOに自衛隊がアプローチをかけていると話した。これを受けて、エイダン氏がアメリカでは時給の安いマクドナルドなどの周辺で若者に声をかける軍のリクルーターが多いと説明し、「本当の徴兵制は貧困です」と言うと、聴衆がどよめいた。


現場の証言を聞いたところで、再度、参加者に三択で意見を聞いた。(前回と意見を変えても良いとした)「即時撤退」が増え、「段階的撤退」が2名に減った。「駐留」はゼロ。


続いて高遠から、イラク情勢を説明。地域によって治安情勢が大きく異なり、米軍が事実上撤退したところでは治安が劇的に良くなっている例を紹介。一方で、バグダッドなどではシーア派民兵によるスンニ派住民虐殺が止まらない事態を紹介し、こうした地域では「米軍に捕まった方がマシ」「米軍でもいいからいてほしい」などの意見も少なからずあることなどを紹介した。これを踏まえて、「9条の理念はイラクで通用すると思うか?」という質問を参加者に投げかけた。全体の3分の1がどちらにも手を挙げなかった。


ここからは、参加者とスピーカーの双方向で進めた。最初に、「イラクで9条は難しい」という人から、「イラク人はどう思うか?」と質問が出た。カーシムは「9条の理念は通用するが、状況やタイミングをよく見極める必要がある」と答えた。また、「イラクは破壊の限りを尽くされているが、米軍が撤退したら、誰が後片付けをするのか?」という質問には、エイダン氏が「イラク人は自分たちで復興できる。米軍がいればいるほど、片付けなければならないものが増えるだけだ」と答えた。


「イラク、アメリカ、日本」という設定で、全体会トークと分科会ディスカッションで目指したものは、現場をよく知る人たちの話に耳を傾け、自分たちの置かれている日本の生活が、戦場と一直線につながっていることを認識してもらうことであった。また、「9条」を日本だけのものとせず、私たちが関わっている「対テロ戦争」にどう絡め、「9条の実践」を考えるきっかけを作ることであった。参加者は10~30代が46%(内20代が28%)と最多で、寄せられた感想は、この問題をより身近に捉える機会になったというものが多かった。この分科会は、実行委員会と若者による「憲法カフェ」の有志、大学生からなる「ピースナイト9」の協力で行った。分科会後、「ピースナイト9」主催の学生交流会に、カーシム氏、エイダン氏、雨宮氏が参加し、15大学70名ほどの大学生と交流した。



※資料1: 5/5 分科会ディスカッション「イラク、アメリカ、日本」感想
※資料2: 「イラクに咲く花」感想(続けて参加されている方がいるので)


(文責 高遠菜穂子)
投稿者:金熊 | 分科会レポート | comments (0) | trackbacks (0)

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