特別フォーラム2 国際法律家パネル

2008年5月5日 午後4:00~6:30
303会議室

世界の多くの人々が、9条の理念を生かすという目的のために幕張に集まり、9条世界会議を開催したことは、歴史的にも非常に意義あることである。国際法律家パネルは、法律家という視点から、戦争や平和をめぐる現状をとらえ直し、9条の理念を生かすためには、どうしたらよいかを討論する趣旨で開催された。


私達にとって平和は生活の基盤である。安心して生活するために平和は欠かせない。また平和は、人権保障や民主主義の前提でもあり、これらは密接に関係している。鈴木麻子弁護士の9条の果たしてきた役割と問題提起のあとの、各パネリストの報告もそのことを如実に物語るものであった。


韓国のイ・ジョンヒ(弁護士)さんからは、司法の場で平和的生存権が基本権として位置づけられたことが報告され、韓国の平和運動が統治や司法のあり方を見直させ、民主的なプロセスの実現をはかることにつながっている、という指摘があった。北東アジアの平和確立のために日本と韓国の運動の連帯が重要だということを感じさせる発言でもあった。


アメリカのロビン・アレキサンダー(弁護士)さんからは、アメリカにおけるイラク戦争のさまざまな影響、とりわけ戦争が市民的自由を束縛するという実態の報告があった。どのような口実の下で戦争が行なわれても戦争に正義はないということを実感させる報告であった。


フランスのローラン・ベイユ(国際民主法律家協会副会長・弁護士)さんからは、9条はすべての人々の義務であるということが示され、すべての国の憲法に9条を書きこむことが提案された。また世界の平和確立のためにヨーロッパが軍事的脅威となってはいけないことも示された。そもそもEUの起源は、第一次世界大戦後の「二度とヨーロッパで戦争を起こさない」という反省に遡ることを想起させる発言であった。


カメルーンのオーギュスタン・ケマジュー(弁護士)さんからは、アフリカの悲惨な戦争の実態の報告がされ、紛争の主要な原因についての分析があった。その中には司法機関が政治的暴力の規制をしない、ということも指摘されている。また武器が自由に手に入る状態が、紛争を拡大し、悲劇を生んでいるとの報告もあり、武器の売買のみならず、製造自体も本格的に規制する必要のあることを痛感させた。「戦争がネガティブなものであることを多くのアフリカの人々に知ってもらいたい」という発言が印象的であった。


コスタリカのカルロス・バルガス(国際反核協会副会長・コスタリカ大学教授・弁護士)さんからは、9条の基本原理は、全世界の平和を維持するために国家がとりうる最も有効な法的手段であること、9条の精神をすべての政府に働きかけることの大切さが指摘された。また、平和の確立と人権、環境保護、民主主義、経済発展、平等などが相互に関連していることも指摘された。紛争の多かったラテン・アメリカでのコスタリカの平和確立の経験は、我々にも大きな心の支えとなるものである。


日本の愛敬浩二(名古屋大教授)さんからは、9条の形骸化という危機についての説明があった。この日本の状況は、9条という条文があってもそれをいかに解釈するかによって、9条の内容を骨抜きにすることもできることを示している。ここに法律家があるべき解釈を示すことで平和確立のために大きな役割を果たすことも理解できる。


シリアのリファ・ムスタファさんからは、9条の理念が侵害されている国際状況を憂い、9条の理念を国連の場で生かす大切さを説くレポートが寄せられた。その他フロアからも、ロシア、パキスタン、インド、イタリア、フィリピン、アメリカから報告や貴重なコメントもいただいた。質問も多く寄せられた。


日本は第二次世界大戦の加害者であると同時に2度の原爆を体験した被害者でもある。この悲惨な体験をもとに、二度と戦争をしない、戦争の犠牲者をださない、という誓いが9条の基礎となっている。9条の改悪は、アジアのあり方、世界のあり方をも変えるものである。


他方で世界の平和、世界の人々の平和的生存権の確立は、一国だけの努力では成り立たない。9条の世界化、9条の理念が世界のすみずみにまで浸透することが必要である。そのためには、世界の法律家がそれぞれ自国の法律や政策に、あるいは法廷で、9条の理念を生かすように連携をはかることが大切である。そのとき9条は、単なる理念や夢ではなく、身近な現実的なものになるであろう。


(文責 植野妙実子)
投稿者:金熊 | 分科会レポート | comments (0) | trackbacks (0)

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